秘境と名高い紀伊半島を巡ってきた話 Part.1
9/12(木)、20:00。
電車を待つ仕事上がりの人々に混ざり、サイクルジャージが1名。
行き先は…名古屋。
茨城県から紀伊半島(熊野市)へアクセスする場合、始発で出発しても到着は13:00。
9月ともなれば日が落ちるのもだいぶ早くなってきているわけで、これではせっかくの風景を楽しめる時間が短く、何より夜間ライドは危険が伴います。
それゆえ、可能な限り日が出ている間の走行時間を稼ぐため、できる限りスタート地点の熊野市に近づけるよう前乗りを実行。
名古屋からであれば、熊野市までは8:00の始発で到着が11:00。
これなら十分明るいうちのライドを楽しむことができるでしょう。
そんなわけで、名古屋駅前の「自遊空間 名古屋太閤口店」で夜を明かすことに。
週刊実話を読みながらのネカフェモーニング。
7:00にはネカフェを後にし、駅が混み始めるよりも前にホームへ。
のんびりと車窓を楽しみながら熊野市を目指します。
市街地の平野からだんだんと山と海に囲まれた景色へと変わり、次第にどこか俗世とは違う雰囲気に包まれていきます。
10:00頃には2回目の朝食として、名古屋駅で買った天むすを食す。
プリプリの海老天おにぎりによる胃袋への五段突き。
お腹も程よく満たされ、走りに向けて体が起き上がってきます。
11:00。熊野市駅へ到着。
駅名に「市」が入る駅というのはこれまで馴染みがなかったため、熊野市駅だけかと思いましたが、調べてみると意外とたくさんあるんですね。
車窓の写真からもご察しの通り、天気は雨。
でも、雨雲レーダーの表示にしてはマシな強さな模様。
雨の様子に一安心し、輪行解除。
初日の天気が雨なのはだいぶ前からわかっていましたが、それでもホイールはレーゼロカーボンをチョイス。
1日目が山メインであること、2日目以降の海岸線がアップダウンの連続であることを考えると、軽くて反応性の良いホイールがどうしても欲しくなります。
今回新装備の1つとして、シューズカバーのヴェロトーゼを導入。
よくTTなどで空気抵抗軽減のために着けているのを見かけますが、もともとの用途としては雨や冷たい風をシャットアウトするため。
「足が濡れない」「靴を乾かす手間を減らす」目的で購入してみましたが、さてどれだけ効果があるか。
レインウェアとヴェロトーゼを装着し、いざ雨の熊野へ出発。
まずは熊野市駅から海岸線沿いに国道42号を南下し、御浜町から県道739号へ。
風が強いせいか、海は濁り気味で青く透明な熊野灘は見られず。
電柱には「太平洋岸自転車道」のマーク。
道路にもブルーラインが引かれ、自転車を意識した道路づくりが伺えます。
熊野市の看板。
熊野市といえば熊野古道。今日通るルートも熊野古道に関連したルートとなっており、伊勢神宮から熊野本宮大社へと続く「伊勢路」の一部分を走ります。
自然と信仰が残る世界遺産の道、ワクワクが止まらない。
あっ、このロゴは…!
キナンサイクリングチームのキナンって、建設機器のレンタル会社だったんですね。
さて、御浜町から県道739号へ入った後は国道311号へと合流し、本格的に山岳コースへ突入します。
山岳といえど急斜面と思われるポイントの多くはトンネルになっているため、さほど脚が削られることは有りません。
車の数も少なく、かなり安心して走ることができます。
スタートしてから約20km。国道311号を逸れて、県道40号へと入ります。
地図では平均勾配3%と出ていましたが、走ってみればGarminが示す勾配は5~7%、たまに10%越えを表示したり…。
毎度のことながら勾配詐欺をかまされています。
県道40号を上り始めておよそ3km。
今回の目的地1つ目に到着。
🌾丸山千枚田🌾
深い山々に忽然と現れる黄金色の斜面。
三重県の自然と食文化が作り出す、雨に濡れた緑と金の縞模様が大変美しい景観です。
正直、この棚田を写真に収めたいがためにこの紀伊半島ライドで山岳コースを取り入れたと言っても過言では有りません。
それほどまでに棚田を見たいと思った理由は、過去に2回も訪れてしまった能登半島の白米千枚田。
眼前迫る青い海とのコラボレーションが大変美しく、このためだけに能登半島を走りに行ってもいいと思えるほどのロケーションでした。
棚田は日本各地に点在しており、きっとその土地独自の景観を作り出していることでしょう。
今後ツーリングで訪れる地域に棚田があるようであれば、ぜひともその風景を写真に収めたいところです。
さて、展望台から棚田を眺めた後は、またすこし山道を走り棚田の中へ行ってみます。
雨の影響で山の斜面を流れる水の量は多く、洗い越し状態になっているところもちらほら。
それにしても、雨に濡れた植物はいつにも増して色鮮やか。
霧が沸き立つ山々も、紀伊半島の秘境感を醸し出しています。
雨天のライドは蒸れるし荷物は増えるしメンテは大変だしで苦労しますが、雨には雨の風景の楽しみがあります。
自転車には申し訳ないが、まっ、水も滴る良い機材ということで。
丸山千枚田の風景を堪能した後は、6kmほど先にある道の駅、「熊野・板屋九郎兵衛の里」でひと休憩。
この黒い物体は「めはり」。正確には「めはりずし」か。
熊野の郷土料理で、ご飯を高菜で包んだシンプルなご当地ファストフード。
手頃な大きさと腹持ちの良さ。まさに旅人飯。
んでもってご当地おみやも。
熊野といえば八咫烏、そのカラス柄の手ぬぐいを購入。
ホント、行く先々でいろんな柄のてぬぐいがありついつい手にとってしまいます。
手ぬぐいはコンパクトだしすぐ乾くので、ここ最近のツーリングでは常にバックポケットへ入れるようにしています。
手や汗を拭くほか、寒くなったら首元の保温もできる万能さ。すごく便利。
道の駅での一服を終え、引き続き熊野の山の中へ。
走行距離は25kmを過ぎ、この日の道程の半分は過ぎたところ。
トンネルを超えると視界が一気にひらけ、北山川が出現。
ということは…。
和歌山県突入。
それと同時に12%の傾斜出現。
これが和歌山の洗礼か…。さすが秘境。
奈良県!?
今回のルートが奈良県にもかぶっているとは思いませんでした。
予想外のエリア突入にテンションUP。
そして、急坂を上ったあとはもちろんダウンヒルも。
いつもより強く、そして繊細なブレーキング。
あぁ、ディスクブレーキがほしい。
ダウンヒルを終え再び北山川沿いへ。
切り立つ崖とその間を流れる川の風景は一見の価値有り。
途中、瀞峡との分かれ道が有りましたが、今回の日程では回りきれないと判断し素通りすることに。
あの峡谷を流れる青緑の川の流れ、ぜひ見てみたかった…。
北山川から熊野川へと合流し、いよいよ本日の目的地、川湯温泉まであと10km。
ですが、宿には直行せず、ちょっと寄り道していきます。
熊野古道に来たんですもの、やはりここには寄らねば。
自転車を併設されているお土産屋に停め、カメラを持って参道を進みます。
濡れる杉に囲まれた神殿。
思わず息を呑むその建て構え。
多大な労力をかけてまで山深いこの神社まで参拝し、ご利益を授かりたいと思う人々の気持ちが何となく分かる気がします。
自然と文化の融合である熊野の真髄ここにあり、か。
参拝を終えた後は、ひときわ目立つ大きな鳥居へ。
ここは「大斎原(おおゆのはら)」と呼ばれており、熊野本宮大社の旧社地。
明治時代に起きた水害により神社が流され、残った部分を今の本宮大社がある場所へ映したという経緯があり、現在はこの巨大な鳥居と小さな祠が置かれています。
今の本宮大社とは違った、どこか寂しさ残る遺跡のような雰囲気があります。
本宮を後にし、そろそろ本日の宿がある川湯温泉へ向かいます。
熊野川が支流とぶつかる場所は濁流が混じってしまい茶色くなっていましたが、その支流より上流側は清流と名高い青さが見れました。
この青さは土壌から溶け出した石灰によるもので、晴れが続けばもっと青く透き通っているとのこと。
本日のゴール、川湯温泉へ到着です。
川湯温泉はその名の通り、川の流れの直ぐ側に熱湯が湧いており、清流を間近に眺めながらの露天風呂が楽しめます。
が、写真の通り大塔川は濁流とかしており、今回はその露天風呂は体験できず…。
今日の宿は「山水館 川湯まつや」さん。
宿にチェックイン後はすぐさま内湯へ行き、濡れたウェアをキャストオフ。
風呂に入っている間、コインランドリーで洗濯。
雨の中のライドは大した距離でなくとも精神的に疲れやすく、それ故ゴールして風呂に入ったときの開放感はなんとも。
体力も精神力もフルに使う自転車旅行だからこそ、温泉は欠かせません。
風呂上がりと同時に洗濯も終わったので、部屋に戻って干します。
セリアでたまたま見つけたこの洗濯ゴムロープが大活躍。
店頭で商品名を見たときにピンと来てツーリングに持ち込んでみました。
荷物を限りなく少なくするためウェアを減らすと、洗濯&乾燥は必須。
しかし、ビジネスホテルなどは洗濯はできても干すスペースが足りないことがほとんど。
そんなときこれを使えば、カーテンレールやちょっと引っ掛けるスペースがあればロープを張って乾燥スペースを作ることができます。
なにより洗濯ばさみがいらないので運ぶときにかなりコンパクトにできます。
キャンプライドなんかでも使えそうですね。
温泉のあとは夕食。ビュッフェ形式。
こうやって見ると野菜中心なチョイスだ。
そして焼きたての鮎を見つけすぐさまゲット。
鮎うま。
ほくほくの身にちょっと苦味のあるワタ。これはご飯ではない、日本酒ですわ。
熊野の清流で育った鮎。贅沢だぁ。
温泉と夕食を堪能した後は、ご当地テレビ局を見ながらダラダラ。
そしてテレビを消し、宿の直ぐ側を流れる川の流れを聞きながら就寝…。
翌日は熊野の宿を下り、紀伊半島の海岸線コースへ。
山から海への景色の移り変わり、くじらの町、本州最南端。
楽しみでしかたがないスヤァ…。
つづく。